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『冒険王』 by 南佳孝 吉田保リマスタリングBSCD2

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 さてリマスタリング購入の2枚目は、南佳孝の9thアルバム『冒険王』です。これは発売当時、その小松崎茂のジャケットは覚えてましたが、結局買ってません。多分ラジオで聴くくらいの扱いでした。LP買うにも、小遣いそれほどないので、かなり選んでたはずですし。今でも覚えてるけど、FMエアチェックでいくつものアルバム分を録音して聴いてましたね。後にCD買ったものもあれば、カセットテープを大事に聴き続けたものもあります。
 もともと南佳孝のリマスターアルバムは無いかとAmazonで探してたときにもこのアルバム見かけたのですが、AmazonにあったのはSony Musicの廉価復刻版シリーズ「CD選書」の一枚でした。安いのが良ければそっちでもいいんでしょうが、その後折角リマスタリングアルバムを見つけたので、こちらを購入した次第。

 『冒険王』は、1曲目とそのタイトルでもある12曲目が特に印象深いです。おそらくラジオで録音して聴いたんでしょうけど、これはしっかりメロディと一部の歌詞を覚えてました。「スタンダード・ナンバー」の方はとんと覚えてないのに(笑)。ただ聴いてると、他の曲も覚えてるものですね。全部ではないけど、これもラジオで聴いたんだろうなあ。

 『冒険王』は、全曲の作曲を南佳孝、作詩は松本隆。4曲目だけMartha Lavenderと共同ですが、これは英語の歌詞なので、英訳かな。各曲の編曲は以下に。殆ど清水さん、次点で川島さん、シメに井上さん。

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                   編曲
1. オズの自転車乗り    清水 信之 3:28
2. 80時間風船旅行     清水 信之 3:54
3. 素敵なパメラ        清水 信之 3:36
4. Come Back         清水 信之 1:22
5. Peace           川島 裕二 4:20
6. 浮かぶ飛行島      清水 信之 3:53
7. 火星の月         清水 信之  1:43
8. 宇宙遊泳          川島 裕二 5:36
9. 真紅の魔都        川島 裕二 3:21
10.スタンダード・ナンバー 大村 雅朗 3:37
11.黄金時代         川島 裕二 3:45
12.冒険王          井上 鑑  5:36

 こちらはライナーの表。LPだと三つ折りになってたんでしょう、三枚つづりの絵で構成されてます。もちろん小松崎茂画。一番左側の絵の左右に曲名が書かれてます。

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 では曲の感想をば。
 なおこの下の三枚の写真はライナーノーツの裏面。表紙と違い、きっちり三等分ではありません。歌詞が読めるくらいのリサイズにとどめているので、ちと大きめです。上部には懐かしの絵物語風に、10枚の絵とストーリーが付いてます。もちろん小松崎茂画。

 1曲目はお察しの通り『オズの魔法使い』をモチーフにした歌。金色のレンガの道(原作だと黄色──イエローブリックロード)、虹の国(二作目の邦訳タイトルだけど、本編ではそう呼ばれなかったような。原題だと「マーベラスランド」なので「すてきな国」程度か)などのキーワードはオズから来てますが、基本は少年時代と今を歌うもので、オズは少年時代のメタファーですね。曲調は南さんの中では実にワクワクするタイプの歌。メロディもいいけど、歌い方がいつものけだるげな感じでなく、実に楽しそう。ただ、どこかの考察であったんですが、これ死にゆく男の夢想ではと。少年時代の僕とすれ違う→彼は未来へ、つまり自分は過去へ戻る。虹の国、好きだった彼女がいる彼方はつまりあの世だと。


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 2曲目は同様にヴェルヌの『80日間世界一周』がモチーフか。ただ、タイトルからすると赤い気球がキーワードのようだが、ヴェルヌの小説には気球は出てこない。出てきたのは蒸気船や機関車などで、気球が出たのは米映画(ポスターにも出てくる)。なので映画版がモチーフかな。歌詞の物語は、映画とかは全く関係なく、恋人たちが気球に乗って飛ぶ間の様子。気球で80時間も飛ぶのはリアリティはないけど(通常三日以上飛び続けるのは、競技などでもそうは無い)、二人だけのハネムーンだそうなので。ロマンチックではないですか。曲調もタンゴぽかったりして、印象は違うけど時代的には9曲目の「黄金時代」と被る感じ。この1、2曲目はアルバムタイトルに相応しい出だしで、素晴らしい。

 3曲目は、いきなり別方向に明るい曲だけど、なんというかアメリカン、というよりナイアガラ系メロディ。歌詞は、どこか「恋するカレン」を思わせる言葉とテンポ。まああっちは振られるのを見てるだけしかできないようなネガティブな歌で、こっちは一応声かける気もあるし自分に自信はあるポジティブ思考(フリかもしれないが)。ただこちらのパメラは高嶺の花っぽいし、どう見ても振られる前フリにしか見えない(笑)。歌詞としては米50~60年代の雰囲気のラブソングで、ちょっとアルバムコンセプトに合わない気もするけど、いい歌です。

 4曲目は、全編英語歌詞のロックンロール。少し声量抑え目でラジオから流れてるような歌い方。短めですが、これもアルバムタイトルからは少しズレてる気もする。英語なのではっきりしないけど、部屋を出て行った彼or彼女に帰って来いよと歌う歌……かな。

 5曲目は、平和、というよりタバコの銘柄のアレがモチーフ。ダブルミーニングでもあるが。かつての青春の恋を思い出してる男の歌。彼女が嫌いと言ったゴダールの映画コルトレーンアポロ11号の月面着陸学生運動とちりばめられたキーワードから、60年代終盤か。実は調べてみると、アポロ11号と同じ69’年に新左翼によるピース缶を使った爆弾事件が起きているので(爆破未遂)、これも掛けているのかも。これもアルバムタイトルからすると少し違う気もするが、メタでそういうのを見てたころと思えば、アリ。当時はまだまだ冒険王(雑誌)も頑張ってた。

 6曲目は、スローテンポでファンタジィな歌詞。まさにアルバムタイトルの冒険に相応しいが、リアルでなく幻想(ゆめ)なので、片思いの恋心を歌ってるのかな。なんか原田真二を思い出すダークで幻想的な歌。というか歌い方もなんだか「Candy」と似てるのよね。あっちがもっとねちっこいけども。

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 7曲目も同じ系統。こちらは火星で独り死にゆく男の歌。続けて聴くと、前は地上から恋い焦がれ、その後星を渡り火星で事故で独り死んでいくみたいな返歌に思える(笑)。シンプルな歌詞で短い曲ですが、いい曲。火星の運河とか独りの男とか、ブラッドベリの『火星年代記』思い出しますね。

 8曲目はどっちかというと冒険物からSFぽいイメージに。これは歌詞もあるけど、曲調のせいかな。タイトル通り宇宙遊泳して地球を眺めてる男の歌。地上では戦争の火が見える。静かに流れる宇宙の時間と、戦争と君の場所が同一に歌われるため、音のない世界から肉眼で見えない遠い世界を想うという、距離が感じられる。忘れてはいけないのは、最初に命綱を外してること。帰るつもりはないから、眼に見えぬ神々を感じている、つまり死にゆくということで、理由は分からないけど自殺する男の歌らしい。歌詞が終ってからの後奏が結構長く、この余韻が宇宙に漂う男の最後なのかな。でも、これもいい曲です。

 9曲目。曲調はロックンロール。魔都とか、ブレインパワーとか、超能力伝奇小説っぽい言葉が並び、冒険小説から少し時代を下って70~80年代ぽい歌ですね。支那服着た君とか、ちょっと前の雰囲気も残ってるけど。ちょっと明るめの曲調ですが、これも冒険ものか。

 10曲目は、薬師丸ひろ子が歌った主演映画の主題歌「メイン・テーマ」と曲は同じで歌詞が少し違う歌。こちらは男目線での歌詞で、あちらは女目線の歌だそうで。凄くいい歌なんですが、これもアルバムコンセプトからすると、少しズレてる気がする。こちらはむしろ次のアルバム『LAST PICTURE SHOW』に合ったような。外国映画の少し苦い恋模様、という感じで、映画の主題歌としてはばっちりですね(いや『メイン・テーマ』、見てないけど)。

 11曲目。黄金時代というのは、まあ人生のある素晴らしい時期のこととハリウッド映画のダブルミーニングかな。ハリウッドの起こりはそもそもゴールドラッシュですからね。これもハリウッドのギャング映画がモチーフのようで、ハバナの葉巻、シカゴやらギャングスターやら故郷のシシリーなんて言葉が散りばめられてます。曲調もギャング映画に出るようなダンス音楽っぽいテンポ。チャールストンと比べるとテンポが遅い気がするが。シシリーから出てきた移民の子だが、いつしか女にも不自由しないギャングとして恐れられた男。しかし唯一つ手に入らないのは、スウィートホーム。妻は若くして死に子供も居ない。今や黄金時代は終り、彼は独り拳銃自殺する。明るい曲調だけど、栄光の日々も虚しく時代に取り残され死んでいく男の歌。

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 12曲目は最後を飾るに相応しい名曲。アルバムタイトルそのものですが、勇壮なものではなく、スローバラード。伝説の魔境へ入る前夜、ある冒険家の現世への未練を捨て去るところを、実にロマンたっぷりな歌詞と曲調で描いている。ロマンチックなスタンダードナンバーです。君を愛してるといいつつ、もしも帰らなければ忘れてくれと、傲慢さをもちつつ冒険心を翻さない強い意志。なのに勇気とかそんなものは微塵も出ず、夢を追う、それだけが夜の闇に灯がともるように、一つ残る。男のロマンチシズムですね。この歌から一曲目にループすると、なんだか冒険家の最後の冒険から、死に瀕し、時を戻して最初の冒険(少年時代)を思い出すようで、少し切ない。
 実はこのメロディ、次のアルバムのある曲とちょっとリズムとかサビが似ていて、私はそっち聴きまくったせいか、この歌もCDとか買ってないわりにすぐ思い出しました。

 上の写真にスタッフが書かれてるけど、制作側が「冒険者」と書かれてるのが言い得て妙ですね。他のメンバーもそれぞれ役職名に漢字アテられてるし。

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 全体的に見れば、思ったほど『冒険王』とか小松崎茂っぽくはない。ただ最後の曲の締めがよすぎて、終り良ければ全て良しみたいになってる気もする。
 この手の冒険ものイメージのアルバムとしてはあがた森魚の『バンドネオンの豹(ジャガー)』という秀逸なアルバムがあるが、それとは比べられない。むしろ小松崎茂のジャケットが邪魔をしていて、どちらかといえばタイトルと30~50年代の映画モチーフで考えると悪くはない気がする。まあ小松崎さんに依頼したのは、一二曲作ったころで、最初からそれを念頭に置いて作られたアルバムではないらしいですが。ライナーは凄く纏まってるんだけどなあ。

 タイトルからイメージするなら、1、2、6、7、8、12曲目がお薦め。イメージはズレるけどいい曲としては3、5、10曲目を足して、4、9、11曲目はあまり好みではないかな。

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