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暗闇の淵──DVD『刑事ロニー・クレイブン 完全版』(BBC TVシリーズ)

 DVD『刑事ロニー・クレイブン 完全版』を購入、観賞しました。原題は“EDGE OF DARKNESS”、1985年にイギリス国営放送BBCで制作、放送されたTVドラマシリーズ(全6回)です。日本ではNHK-BSで1990年、1991年に地上波の総合chで放送されました。あとはレンタルビデオが出たきりで(既に廃盤)幻のドラマと言われてたそうです。
 監督はマーティン・キャンベル。名作TVドラマ『特捜班CI-5』などの演出をし、この作品も監督。その後アメリカに渡り、ハリウッドで映画を撮っています。映画は『007ゴールデンアイ』他どちらかといえばアクションものが多いですが、このドラマはものすごく社会的なサスペンスでした。

 このDVDはお馴染みStingrayから2011年に発売されましたが、前回の『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』と同じく今年1月31日で販売終了となるため、思い切って購入しました。

 いや買って良かった。面白かったです。映画と違いTVシリーズのため(しかもイギリス)、今後見る機会があるか微妙でしたし、なによりこれが最後かもと特典も盛りだくさんに入れてくれてます。キャストやスタッフへのインタビューもそうですし、TVの賞を取った映像まで入ってます。あと使われた順にBGMまで入ってるという凝りよう。渋いけどBGMらしくそれほど長い曲はないのですが、おそらく入ってるのは楽曲にエリック・クラプトンが関わってるからかな。ものすごく不安にさせる曲調で、実に良かった。ギターはもちろんクラプトン。まあBBCから元になるDVDが出ていて、そこ用に作られたんでしょうけど。

 映像はもちろんノーカット。一時間ものが6話で本編314分。特典は84分。DVD二枚組です。音声はNHKで放映された時の日本語版も入ってますが、カットされたところは英語のままになってます。結構長くカットされたシーンもあるので、日本語音声で見ていたところ面倒になり途中から日本語字幕も入れたまま見てました。映像は古いTVドラマなので4:3のスタンダードサイズ、音声も2chモノラル。

 粗筋。

 英国ウエストヨークシャー警察のロナルド(ロニーは愛称)・クレイブン警部補は、労働組合長のゴドボルトに頼まれ、組合の不正選挙に対する捜査から手を引くことになる。その夜、大学へ迎えに行った娘エマと帰宅すると、家に続く階段で黒い合羽を被った男に呼び止められる。
「クレイブン、この人殺しめ!今度はお前の番だ!」
 思わず飛び出したエマは胸にショットガンの銃弾を受け、クレイブンの腕の中で絶命する。男は逃げ去った。
 憔悴したクレイブンは家の中をさまよい、娘の部屋から拳銃、ガイガーカウンター、そしてガイアという言葉を見つける。その後、クレイブンはエマの幻覚を見るようになり、時には会話するようになる。検死後のエマの遺体から髪の毛を切り取り持ち帰ったクレイブンだが、ガイガーカウンターが偶然近づいたエマの髪に反応する。
 警察はクレイブンへの怨恨であろうと、かつて逮捕した者たちのリストを作る。クレイブンは捜査からは外され、特別休暇をもらう。休暇を利用しロンドンに行くクレイブンは独自に捜査しようとする。エマの幻影と話し、思い出に涙するクレイブン。ロンドンではペンドルトンと名乗る男が接触してくる。彼と彼に紹介されたハーコートは政府機関の者で、ガイアは反核と自然崇拝の地下組織でエマはテロリストだという。クレイブンは信じない。ペンドルトンから聞いたダリウス・ジェドバーグという男が接触してくる。彼はCIAで、エマのことを知っていた。彼とは奇妙な間柄、パートナーとして闇の中を探っていくことになる。
 一方エマはガイアの仲間と共に6人でノースモアというところに侵入していたことが分かる。そこは炭鉱跡を利用した核燃料の放射性廃棄物処理施設。そこで放射線被害を受けていて、6人はそれぞれ行方不明もしくは死亡。脱出したエマともう一人も死亡していた。ジェドバーグのもたらしたCIAのレポートによれば、エマ達の侵入した放射性廃棄物処理施設にはありえない汚染が近場の湖にあり、そこからプルトニウムが施設にある疑惑が生じていた。エマ達はそれを確かめるために侵入したのだという。
 襲撃犯はかつてクレイブンが関わった相手ということが判明。二人のうち一人は逮捕時に大怪我し後に死亡、残した言葉から実行犯はマクルーンという男が分かる。あえて監視を外し待ち受けるクレイブン。対決し、エマを殺した理由、もしくは彼を利用してクレイブンを殺させようとした背景を喋るようせまるが、警察に狙撃され、またもや背景は闇の中に。クレイブンを殺させようとした黒幕は、そしてエマ達が殺された理由は、施設の謎とは。クレイブンの復讐は、強大な敵と政府の思惑も絡み、先の見えない闇の中にあった……。

 この作品の面白さの一つは配役とその演技。とにかく渋い。クレイブン役の主演ボブ・ペックは初っぱなに娘を殺され、作中ではほとんど笑顔無しのへの字口。悲壮な表情、哀しみの目、ときおり入る娘との優しい会話と笑顔、慟哭と叫び。ピカイチです。また声もいい。日本版の声は村井国夫さんで、よく見ると目以外は顔が似てる。こちらも声が渋く、実に合ってます。ボブ・ペックはこのあとハリウッド映画でも『ジュラシック・パーク』で早めに殺される警備員してたりしますが、元々は舞台出身のシェークスピア俳優。ハリウッドでももっと渋い役してたら良かったのに、残念なことに既に鬼籍に入ってます。

 次に名前が出るのはCIAのダリウス・ジェドバーグ大佐役のジョー・ドン・ベイカー。最初は唐突に入り込んできたんですが、その存在感、ユーモア、笑顔、台詞、どれもいい。名脇役ですね。後半だとボブの次にキャストロールに入ってくるからなあ。ジェドバーグはテキサス男らしく、カウボーイハットを被りそれらしい言動もありますが、ベイカー自身もテキサス出身だそうで、キャスト決まってから設定決めたのかも。本人は若いころに軍隊にも入っていてそこで演劇を始め、後にボンド映画でもCIAを演じたというのが面白い。声は石田太朗。こちらはそれほど似てはいないけど、輪郭は似てるかな。

 次に娘エマ役のジョアンヌ・ウォーリー。早々に殺されますが、その後もクレイブンの前に普通に現れます。幻覚ぽかったり幽霊ぽかったりもなく。ただし出方と消え方は唐突で、クレイブンが歩きながら話しかけ、車の陰を通り過ぎたら普通に横を歩いてるといった感じ。振り向いたら消えてたり。エマはカーリーヘアでわりと美人さんですが、その行動力は父譲り。反核運動をしながら、反骨精神と自分の正義を信じ、探険まがいの道のりで危険な核廃棄物処理場に侵入するなど凄まじい。もっとも映像に出てくる分には父を励ます優しい娘でしかありませんが、その透明感はもとの役者もそうだけど、吹き替えの日高のり子さんの声がよく似合います。
 そして泣かせるのが、幼少の頃のエマとの思い出。何かの際にふと思い出す子どものエマとのシーンは、上の現在のエマのとは違い完全に回想で、クレイブンの髪もふさふさだったりするのですが、子どもなのにけなげでねえ。子役がかわいい上に、現状とのギャップが光る台詞が泣かせる。エマを亡くしたあと、初めてクレイブンが涙を流すのも、子どもの頃のエマとの何気ない会話を思い出したから。子どもを持ったことはないが、この回想の数々は胸に来る。この子役は今はどうしているだろうか。

 その他に出てくる脇役たちも、どれも特徴的な顔と演技、吹き替えで実に素晴らしい。

 この作品は、2010年にハリウッド映画でリメイクもされてます。同じ監督と脚本家(は完成前に死去されたそうですが)、主演はメル・ギブソンで『復讐捜査線』。舞台をアメリカに移し、役もアメリカの警官に。悪党はアメリカ内の企業と政府内役人等々。メル・ギブソンの映画としてはおとなしいそうですがアクションも増え、元々の長さから来るじわじわ感もなく、わりとスムーズに対決までいくそうで、原作ファンにはあまり好評でなさそうですが、まあ一度観てみたいところ。ただ、ジェドバーグ役が原作とは逆にイギリス出身俳優になってたりするところは面白いけど、そもそもイギリスが舞台で米の企業やCIAが暗躍し、英米の政府の違いとかもあって面白かったのに、そこらへんが全部内輪になってしまうのはいただけないかな。まあそれも時間が無いからノンストップで気にならないようにしてるかも。

 本作は、地味な印象ながら、当初の刑事もの復讐ものの枠を越え、政治と企業も絡む犯罪もの、個人ではどうしようもない巨悪と核を自由にしようという人間の傲慢さまで描かれた傑作ドラマです。今からDVD買う余裕のある人はそういないでしょうが、レンタルビデオとかでも見かけたら、借りて観る価値は十分にありますよ。

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