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『機械人間 感覚の喪失』DVD

 2月に買っていたDVDです。『機械人間 感覚の喪失』という何やらホラーSFのようなタイトルですが(一応SFか)、これがまたかなり古い。1935年のソビエト映画。監督はアレクサンドル・アンドリエフスキー。脚本のG・グレブネルはアニメ映画『雪の女王』のシナリオにも参加してたそうです。原題は、英語のタイトルからすると『感覚の喪失』のほうらしいです。意味深なタイトルですね。

 パッケージの表紙になってるポスターを見ると、どこかロビーにも似た不格好なロボットとサックスを吹く謎の男、そしてロボットにはRURの文字が……。さらに背面の粗筋によればこの作品がロボットの語源となったとあります。ロボットの語源といえば、カレル・チャペックの戯曲では? これはソ連映画ですけど、チャペックの作品をモチーフにしたところが多々ありますね。
 もっとも発想はチャペックのものからでしょうが、お話は全く違います。チャペックの『R.U.R.』は1920年の作品であり14年の年月が開いてますし、間には『メトロポリス』も作られてます。そこそこ広まっていたこういう存在を映像で確かなものにしたのはこの作品なのかもしれません。そうであるなら、ロボットという言葉を世界に広めたというのもあながち嘘ではないかも(日本ではどうか知りませんが、そもそも公開してたんだろうか)。
 古い作品としては、かなりの力作というか見どころも多く、シナリオとともに当時ならこのロボットはかなり売りになったでしょう。ちなみにここに出てくる巨大ロボットはその名もRUR(ルール)。リップル製万能ロボットの頭文字というわけで、チャペックのものとイニシャルは同じです(あちらではロッサムだった)。

 粗筋。

 とある国の実験工場。流れ作業実験に参加している工員に無理な命令が出され、必死で働く工員はやがて目を回し気を失って倒れる。それを見た別の工員は気が触れてしまい、連れて行かれる。工科大学の学生ジム・リップルは作業を監督する立場のひとり。工員の身を案じるが、同僚は労働者の精神はもっと丈夫なものだと気にもかけない。
 街を歩けばうらぶれた失業者の群れ、仕事もない発明家の友人ビルは国を出ることに。ジムは一念発起して、労働者を守るために代わりに働く万能ロボットを開発する。卒業祝いの席で完成させた試作ロボットを見せると、兄は自分たちの仕事を奪うものだとロボットを壊し、彼を裏切り者扱いする。勘当され、失意の内にさまようジム。そこにお金と実験機材を提供するという手紙が届く。貴族らしい若き軍人に雇われたジムは今度は4mはあろうかというロボットを作り、軍の将校らと資本家の集まる屋敷で披露する。お歴々に認められた彼はロボットを量産することになるが……。

 映像的な見どころは、コンテとかはさほど凄いわけでもありませんが(それでも退屈しない程度に構図などに工夫もあります)、やはり不格好ながら異様な迫力をもつ巨大ロボットRURでしょう。巨大といっても人の二倍、4m弱ですが、狭い構図の中、工場で働いたり人々に迫る姿はどこか恐怖をも呼び起こします。轟音と火花散る工場内での作業は、同じくらい大きな工業用ロボを見慣れた目で見ても、労働者が不安に感じるのもむべなるかな。ただしまともに動くのは手だけで、足は『宇宙家族ロビンソン』のフライデーのように揃ったまま進みます。腕の位置からして、高下駄式で中に人が入ってるようです。とぼけたデザインで今だとさほど大きくも感じませんが、これの一大軍団が迫り来るシーンは今見てもなかなかの迫力です。工場のシーンを見るに、最低9台は作られています。
 売り文句の一つに「『風の谷のナウシカ』の巨神兵を彷彿させるロボット戦闘シーン」なんてこと書いてるところがありますが、いやいやさすがにそれは言い過ぎ。単に列をなして進むところが同じだけ。そんなもの、これ見て書いたとは言えないでしょ。ただラピュタ含め宮崎アニメでのロボット大量生産のイメージと被るのは確か。あれの元ネタのフライシャー制作『スーパーマン』のロボットは1941年ですし、時代的にも量産巨大ロボのイメージとしてはこの映画は先駆者といって差し支えないかもしれません。

 またこの映画のロボットは、なんと楽器で操作します。ジムは試作機ミクロン(子供か小人が入ってるようなサイズ)は笛で、RURはサックスで操作してました。諸問題に悩み酔っぱらったジムが、工場でサックスを吹きながらRURにダンスさせるシーンがありますが、ここは見どころでした。
 さて、これで表紙の謎が判明します。RURの隅でジムがサックスを吹いてる絵は、RURを操作してるところだった訳です。増産されるころには別に無線コントローラーも出来ますが、それもロシア生まれの楽器テルミンのように手をかざして操作するつくりでした(テルミンは1919年初出)。ジムは将来的に言葉や思念で操作できるようになりますと行ってましたが、今のところは音波操作にも思えます。ただ労働者がRURの操作を奪う際には電波がどうのと言ってたので、電波コントロールも出来るということなのかも。そもそも劇中でそこまで科学的考証は出てきませんがね。

 しかしこの映画の見どころは見た目以外に、チャペック作品とはまた少し違うロボットの扱い、社会批判、プロレタリアートの描き方にもあります。プロットとシナリオの一部は現代でも通用するくらい秀逸です(まあいろいろ甘いところもありますが)。資本主義の支配階級である資本家と迫害される労働者という構図を描き、それを非難するためかロボットがスト鎮圧のための武器として描かれるところは、娯楽とも思想的とも取れる構図ですし、家族の別離なども相まってジムの悲劇が浮き彫りになるところは今でも通用するんじゃないかと。ダイアログなどはあからさまに共産的なものいいや思想が入ってるわけですが、今となっては逆に共産世界の身勝手さを知らしめている気もします。労働者が技術者や資本家を一方的に敵視し、結果ジムは追い詰められ、軍人に裏切られ、死の運命へと向います。

 資本家や軍人も、もちろん労働者など使い捨ての道具にしか思ってません。ロシア語をばりばり喋ってる英語名の登場人物たちは、当然アメリカなど資本主義国家を意識してます。ロシアを外国扱いする言葉もあるので西側なのは確か。そうして西側の支配階級の軍人や富裕層たちはロボットを戦いの道具にと考え、あげくはストライキをする労働者を襲い、村を破壊します。搾取する側の心根を見せつけるわけですね。一方、労働者のためにとロボットを造ったジムは結局軍人に裏切られ、それは悲惨な結末に向かわせます。

 終盤では無駄に勇壮な音楽が流れ、RURと労働者たちが軍隊よろしく行進していきます。労働者の勝利で終わるわけですが、罰されるのは資本家で軍人は上手く逃げていたりするのは、まさに共産圏の映画。ジムの末路は技術者をおとしめてるようにも見えますが、そもそも勝利に貢献したのは労働者側の技術者ですし、当初ジムの台詞に「機械が発達した国は革命がなくては駄目だ」等というものがあるので、資本家側についた技術者の末路はこうだから、革命側に付けと言ってるようにも思えます。ソ連の共産賛美で資本主義側の

 後半の粗筋。ネタバレ。


 増産を計画する軍は生産工場を調達するようにいい、候補からジムは故郷のビッグライト村を選びます。兄たちとの仲直りがしたいがために。一方ジムの友人らは壊れた試作機ミクロンを直そうとして構造を調べ、さらにRURのことを知るやその秘密を探るために秘密工場にスパイを送り込み、さらには他の労働者とストライキの打ち合わせを行います。
 労働者と対話して未来への協調を図るジムは、工場内からRURを遠隔操作し通信で会話します。RURと触れ合おうとする妹の恋人との友好的なシーンで、ジムの操作を盗み見ていたスポンサーの軍人は彼がRURに抱かれているときに操作し、半殺しにしてしまいます。あわてて飛び出し誤解を解こうとするジムに、労働者は裏切り者と石を投げ、軍は始まったストライキ鎮圧にロボットを向かわせます。コントローラーを入れた小型戦車に乗り込んだ軍人やRURを止めようとするジムですが、間に合わず村は火の海、ジムの兄も軍人に射殺されます。サックスで止めようとしたジムですが、もはやその音は聞かず、RURにひき殺されてしまいます。

 しかし労働者側の技術者はジムの残した試作機ミクロンから作った新しいコントローラーでロボットを支配(より強い電波で乗っ取った感じ)。あわてて戦車から逃げようとする軍人をRURに襲わせます。ついに労働者たちは反乱を起こし、RURと共に軍人や資本家のいる工場へ。そう、労働者の勝利で終わるわけです。しかし、いち早く察知した軍人はすでに逃げ出していて、ラストシーンはRURらに襲われる資本家と踏みつぶされるシルクハットです。プロレタリアート映画と見えて軍人は逃げ延びてるあたり、なんだかなあと思ってしまいますね。ソ連の映画ですから、戦時中の日本映画のように検閲があったであろうことは容易に想像できます。そこで軍人がやられるところはなかなか撮れませんよね。まあ悪役的な若き軍人はやられるわけですが。最後の方を見てると、ああソ連映画だなあと感慨深いです。

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