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映画『9<ナイン>~9番目の奇妙な人形~』

 イオンのシネコンが進出後、市内に唯一残った個人経営の一般映画館「愛宕劇場」(ポルノ映画館がもう一軒あるけど)。そこで先週から上記の映画が上映されていたので、今日の昼間行ってきました。なにせ店から歩いて3分なので、まあ店が忙しくなければ平日でもいけないこともないのです。

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 この映画『9<ナイン>~9番目の奇妙な人形~』は2009年の米映画。3DCGアニメーション映画(飛び出る3Dという意味ではなく2DCGでないという意味)ですが、元々ストップモーションでしたかった企画ということでそのデザインや手触り感とかが実にそれらしいです。ダークな雰囲気のポスターを見て以来、いつか観たいと思っていました。田舎なのでやらないだろうなと思ってましたし(まあ二年前なので、もしかしたら短期間公開してたかもしれませんが)、最近BDが出てるという話を聞いたので探してたんですな。去年11月にDVDBDが出てましたが、検索結果になんと地元映画館でちょうど今上映してるとあるではないですか。たった一週間ですが。スクリーンで観る最後のチャンスかもしれないので逃すわけにはいきません。ありがたいことに今回は千円週間で、帰りに購入したパンフレット(写真がそれ。表側で、裏側には黒地に「生きてる意味を、誰も知らない」というセリフだけ)は300円でした。

 映画OPは老人の手が小さな人形を作ってるところから。荒い麻布のボディの中になにか細かい機械が詰められ機械仕掛けの人形というのはわかりますが、どこか不気味な様相です。最後に背中に「9」の文字が書かれ……その後、荒廃した廃屋の部屋の中、吊り下げられたその人形が風に吹かれて落ち、意識を取り戻すところから本編が始まります。
 外は廃墟と化した街で、人影は死体のみ。そこで彼は自分に似た2という人形と出逢いますが、そこに猫ほどの大きさの機械の獣が現われ、2を捕らえて連れ去ってしまいます。行き倒れた9を助けてくれたのは片目の5。そして独善的なリーダーの1やその用心棒8でした。まだ生きていた2を助けに行こうとする9に賛同したのは5のみ。二人で2を連れ去った獣の向かった工場のようなところ向かうのですが……。素早い動きで戦う女戦士7や奇妙な図を書き続ける6、言葉はしゃべらず図書館で調べ物をしている双子の3と4。彼ら人形たちの成り立ち、そして人類滅亡の真実とは……。

 感想は以下に。基本的にネタバレは無しで。

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 とにかく最初のつかみとしてはそのデザイン(写真はチラシ表)。廃墟の中をゆく人形のデザインが実にすばらしい。ぱっと見かなり不気味な手作り感が、いかにもストップモーションファンには心地よいです。3D系CGですが、そのためディティールが半端無いです。麻布のボディの布目の荒さ、質感、ゴーグルのような目の作りや木や胴で作られた手の作りなどなど、本当の素材でリアルな人形がそのまま作れそうです(目の可動は無理そうだけど、本体が布製なので中にアーマチュア入れるのは難しそうではない)。特に目が。ポスターなどでわかる通り、金属製の丸い筒状なのが古い双眼鏡やガスマスクの目の部分のようで不気味。実際の目にあたる内部はカメラのシャッター内の絞りと同じ機構で、9他の丸い目ィがいに1のつり上がった目も数枚の金属板がの閉じ方で出来てます。しかしこれが絞りの開閉で実によく動き、非人間的なつくりなのに感情を表します。PS3の横スクロールアクションゲーム『リトルビッグプラネット』のキャラクターも同様の麻布っぽい人形なのですが、眼がボタンとか縫い目等なんですよね。『9』はこの目のおかげで、動くと物凄く人間的に見えます。短編『9』が気に入って製作に名を連ねたティム・バートンが惚れ込んだ理由のひとつが、この目だったとパンフレットに書かれてました。バートンの『ナイトメア ビフォアー ザ クリスマス』の主人公には目玉がない、『9』ではその目玉で感情をあらわそうとしているのがおもしろかったと。

 この映画は新人監督であるシェーン・タッカーが大学の卒業製作に作った11分の短編『9』がオリジナルで、元々ストップモーションで作りたかったというくらいで、ブラザーズ・クエイ他の先達のイメージが盛り込まれてるそうです。実際廃墟で冒頭しゃべれなかった9に発声装置を取り付けた2が、その機械をもぎとったのはビスクドールのような風貌の人形の残骸からだったり、機械の獣(ビースト)の中でも最後に出てくるタイプの不気味さはいかにもそれらしい。不気味な人形度合いでいえば押井守の『攻殻機動隊』風味もありますが、残骸の感じがちょっと違うんですよね。細かいガジェットでも、元々完成したものが残骸化してるのが押井風、いろんな残骸を集めて作ったできそこない風でいびつなのが『9』。

 薄暗い画面もいかにもブラザーズ・クエイ系。昼間でも砂嵐がまってたり、薄暗い天気。明かりは蝋燭や火が基本で、途中9が手に入れる電球も古そうな車のライトから取ったものでやはり薄暗い。舞台も基本廃墟の街だったり、ボロボロになってる工場だったり、戦場となった荒野だったりするせいもあって、終末度合いも強いです。

 声優はわりと有名な人が何人か担当してます。現在日本で知られてる中では、多分ジェニファー・コネリーが一番かと。かつての美少女も今やベテラン女優。紅一点なのでアテた役柄はすぐわかりますが(女は7だけ)、なにぶん聞くのは英語なのでそこまで声のイメージは脳裏になく、エンディングロールで名前見て驚いた次第。次に主人公9役のイライジャ・ウッド。名前だけは聞くと思いますが、あの『ロード・オブ・ザ・リング』の主役ホビット、フロド役で一躍スターダムに。あとは2役のマーチン・ランドー。特撮ファンには『スペース1999』でおなじみ。古いドラマファンには『スパイ大作戦』とかか。パンフでお写真見たら物凄く老けてたので驚きました。1はクリストファー・プラマー。どっかで聞いたと思ったらあの『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ大佐(一家の父親ね)でした。


 次にお話。

 冒頭の9製造もそうですが、目覚めたときの様子からも(予告編からも)大体人形がどうやって生まれたかとかは想像できます(私はあまり前情報入れずに観に行きましたが、予告編はネタバレがいくらかあるので見ない方がいいかも)。人類滅亡のあらましもわりと最初のほうで予想可能。そのきっかけは何だったかも中盤で大体わかります。わからないのは(まあ大体想像通りですけど)人形が生まれた理由、滅亡のきっかけになったある要素で、それは一応最後のほう、クライマックス前でわかります。そういう点ではストーリーラインはそれほど凝ったものではないですね。映像とアクション、その奇妙な世界を楽しむのがこの映画の見方かな。時間は80分ですしアクション映画といっていい構成ですので、間延びしたとか途中で飽きることなく見られました。あのディティールであの動きとかあの画像は凄い、という映画です。音楽も悪くないですが、音楽で固めるという感じではないですね。そういう意味では印象的なのは一曲だけ出てくる超有名な歌が流れるシーンだけかな。音楽はバートン映画でおなじみのダニー・エルフマンが参加しています。

 テーマとしては、最後まで見てもそれほど重いメッセージ性は受けませんでした。チラシにある宣伝文句に「人類はなぜ滅びたの? そして僕達は、何のために生まれたの?」という意味深な、哲学的にも受け取れる言葉がありますが、実際はそれほどの哲学的な命題は提示されません。あえて言えば古くからある間違えた科学信奉、人間性を排した戦いの否定、知能よりも進歩よりも心が大事などはあるかもしれませんが、物語としてはさほど重要視されてるとも思いにくい。何しろ人間は既に絶滅してますし。
 物語としてはこの言葉への答えは普通に見つかります。人が作った機械仕掛け(といってもアンドロイドのようなシステムではなく、あくまで人形の骨組みくらいの意味でしょうか)の人形である以上、生まれた理由があるだろうことには察せられますが、それに哲学的な意味と答えが与えられる……というほどのこともなく。
 ごく普通の生命讃歌で、強いて言えば最大の謎は人形たちの中身でしょうか。これだけは少し予想を外しましたし、それを踏まえてキャラを見るとなかなかおもしろい設定でした。でもこの設定だとあのマシン(敵)の設定含めて、シナリオや演出的にもったいないなと漫画やアニメで鍛えられた日本人なら思うかもしれません。なにしろこの秘密を知ったとしても大して人形たちの反応も描かれませんし、9のモチベーションにはなるけど、ウェットな盛り上がりも何か欠ける(音楽の盛り上がりが足りない?)。

 人形たちが困難を排し、自らのレーゾンデートルを見つけ、生き残ったというところはハリウッド的でもありながら、それで結局どうなるかというとこれからも生き続けるだけ。これ、日本の漫画的感覚だと、多分最後のセリフは無しでそのまま放りっぱなしにしたほうがまだよかったような。ある意味毒素が少なめだし、爽快感はあまりない(なくてもいいんだけど)。映像的美学にシナリオが追いついてないというのかな。そういう意味では少し惜しい。見た目は凄いけど、中身はどっちかというとハリウッドものの範疇でしょうか。ある意味日本的ウェットさが凄かった『アイアンジャイアント』ほど心を揺さぶるものはないので、日本人受けするかといえば難しいかも。

 まあそういうわけで、お薦め映画ではありますが、驚愕の秘密などミステリ的な構造を楽しむ映画ではないでしょう。謎解きの種明かしでなーんだ、なんて思わず、素直にへーそーなんだと楽しみましょう。BD(やDVD)コレクターズエディションには短編版『9』もあるそうですし、映像的にはまたBDで観てみたいのでそのうち買おうかと思います。

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