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世界の名作アニメ『アズールとアスマール』

 毎夏の行事、美術館ホールでのアニメ上映会に行ってきました。
 去年は二日とも行きましたが、今年は二日目だけ。一日目は『パンダコパンダ』等日本のアニメが主。ポーランドのモデルアニメーション『おやすみ、クマちゃん』は見てみたかったけれど。
 二日目のラインナップは『アズールとアスマール』『雪の女王 新訳版』『ペルセポリス』『TOKYO LOOP』でした。最高傑作は『ペルセポリス』、アニメーションとしての芸術性や物語としては『アズールとアスマール』がすばらしく、『雪の女王』は古典名作として良かったです。『TOKYO LOOP』は数人の作家の実験映画的な短編を集めたものですが、その性格上どうしても退屈な面もあり、魅力的なメンバーがいたにも関わらず気がつくと居眠りしてて見たい人のものを見逃してしまいました。最後だったので疲れてたのもあるけど、『ペルセポリス』がシンプルな絵柄とわりと重い主題でありながら魅力的で居眠りする間もなかったことを考えると、やっぱり実験映画は実験映画で続けて見るもんじゃないなぁと思います。

 一本目『アズールとアスマール』。2006年フランス。『キリクと魔女』の監督ミッシェル・オスロの最新作で、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーの一つ。日本語版の訳や演出を高畑勲が手がけてます。『キリクと魔女』は前にTV放映されたもののまだ見ておらず、これが初オスロ作品。テーマとしては美しき異文化と和解と融合といった感じ。
 中世ヨーロッパとアラビアが舞台。ヨーロッパの領主の息子アズールとその乳母であるアラビア女性のジェナヌの息子アスマール。方や青い目に金髪、方や黒い目に黒い髪を持ち、兄弟のように育った二人は、大きくなるに連れ立場の違いからよく張り合ってケンカもするが、困ったときは助け合う。母がおらず厳しい父だけのアズールは乳母によく懐き母と慕う。二人は母の子守歌(アラビアの歌)に出てくるジンの妖精(ヨーロッパではエルフの妖精とも呼ばれるという)の話が好きだった。とらわれのジンの妖精を助け出し結婚することを夢見る二人。しかし乳母の子と同様に遊ぶアズールをよく思わない父は、ある日彼を街の学者の元で寄宿させることにし、その間に乳母とその息子を追い出してしまう。
 青年となり帰ってきたアズールは、父の反対を振り切り幼いころからの夢であるジンの妖精を助ける冒険に出発する。しかし海で難破した彼がたどり着いた乳母の土地では、貧しい者たちからその青い目が不吉だと石もて追われ、もう醜いものを見たくないと盲人のふりをすることに。途中、口の上手い昔ヨーロッパから来たという物乞いクラプーと出会う。彼の勧めるまま彼を目としてガイドとして、彼を肩にかつぎながら一緒に旅を続けるアズールは、目に頼らないことによりジンの妖精を助ける三つの鍵のうち二つを手に入れる。
 そうして彼の案内で街についたアズールは、懐かしい乳母の声を耳にする。乳母ジェナヌは国に帰り、女ながら二つの国の言葉を使って大商人となっていた。見すぼらしいアズールを信じないジェナヌだが、見開いたその青い目と懐かしい子守歌に、息子が帰って来たと驚喜する。しかしアスマールは無一文で追い出された記憶から、アズールを拒絶しヨーロッパの言葉は話さない。彼が翌朝ジンの妖精探しに出発すると聞いたアズールは、ジェナヌに自分もそのために来たと言い、助言を受ける。
 助言に従い王女や賢者にヒントやアイテムをもらって、助けてくれたクラプーを従者として出発するアズール。同様にヒントをもらっているアスマール一行と途中までは一緒に行くものの、彼は先に行ってしまう。先を急ぐ二人はそれぞれ危険に出会いそれを乗り越えていくが……。

 まず、非情に美しい映像。シャープなラインながら手書きの味わいもあるブラシ塗りで(フランスのアニメらしいが)、3Dながら2Dアニメのようにも見える。トゥーンシェーディグではないところがいい。キャラの綺麗すぎる回り込み、ゆがまない骨格と背景の建物から3Dだとわかるが、ずっと見ていても違和感が大きくならないのは凄い。カメラワーク、構成が上手いんだろう。逆に市場のシーンなどで多重セルや切り絵アニメのように立体感もあって良かった。3Dアニメらしい素早く正確でコミカルな動きの演技もとあるキャラにあるが、そのキャラだけなので性格的に際立っていてすばらしい。誰かというとシャムスサバ姫。王宮深くに幽閉されている王女で、この国の未来と呼ばれている。初登場シーンから、ああこれか、いかにもジブリが好きそうなキャラだなあと思いつつ、台詞も良くてラストまですばらしい演技をしてくれる(日本語では子役が声を当てているが、それも的確)。

 姫や物乞いクラプーは、ある意味優等生な主人公アズールよりも人間的魅力にあふれ、コミカルで憎めない性格で物語をもり立てる。もしこの二人がいなければ、もっと味気ない普通の童話であったかもしれないので、そこはダイアログ(というかシナリオも含めてオスロ監督なわけだが)の力、翻訳と声優の演技の力だろう。クラプー役は香川照之だが、さすがの演技力で最初声聞いたときはわからなかった(しゃがれ声なんです)。余談だが、彼含めて声を当てたのは最近のジブリらしくほとんど声優専門ではないけれどどれも違和感なく、しかもアラビア語まで声優がしゃべってたというのには驚いた(アラビア人の脇役はそのままだろうけど)。──日本語版ではフランス語の部分を日本語にしているが、アラビア語の部分はそのままアラビア語で話している。これによりアズール側の視聴者からは舞台が異国であるというイメージを崩さずにいるのだろう(アズールは幼いころに乳母の言葉を覚えているのでいくらかは話せる設定だが、視聴者には字幕も出ないためその表情と口調で推測される程度しかわからない)。

 ジンの妖精はなんというか妖精の王女といった雰囲気であまり超常のひとという感じではなく、むしろ人間的魅力──これも台詞からくるものだ──を持つ美しい女性(設定はわからないが、性格や容姿などは監督の創作)。そのいとこも出てくるが、こちらも同様。姫やクラプーも含めての彼らのラストの大団円はすばらしく、童話の王道ではあるが今風(日本風?)な人物造形で──妖精でも人間のように困るし愛らしく意見を述べる──ちょっとカッコつけてるアズールらよりも彼女らの幸せを願ってしまう。シャムスサバ姫とは心底仲良しになれそうだし。普通の妖精自体は羽根の生えた小人で顔も含めて童話的。コミカルな演技が微笑ましく、いたずら好きなヨーロッパ系ではない。妖精たちやその居城を見ていると、どこか日本の影絵の巨匠藤城清治に通ずるイメージがある。色合いと3Dのまっすぐなラインがそう思わせるのかも。

 DVDが出てますが、子供と一緒に見るのにはかなりお薦めです。別に一人でもおもしろいですけど。あまりに日本人受けしそうな作りが不思議でしたが、『キリクと魔女』のサイトの監督のコメント見ると、日本美術等にも興味があって来日して墨絵習ったとか、高畑勲を尊敬してたとか、なるほどなぁと。
 個人的には差別と融和のテーマはテーマとして、寓話として見た方がよいかな。子供にはテーマはわかりやすいと思うけれど、実際の差別の例として登場する青い目の迷信や身分差別は現代的ではなく童話の舞台設定でしか受け取れないだろうし。大切なことだし、見方を変えることを知ることこそ重要だろうけど、現実にはそう簡単にはいかないのは『ペルセポリス』を見るとよくわかる。順番としてこちらが先であちらが後なのは実に良かった。


 次回はその『ペルセポリス』について。

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