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世界の名作アニメ『ペルセポリス』

 美術館ホールの夏のアニメ上映会、二日目の三本目がこのタイトル。

 『ペルセポリス』 2007年フランス。

 ペルセポリスとは現在のイランにあった古代ペルシアの都。今は遺跡が残ってます。タイトルに使われていますが、直接ペルセポリスに絡むお話ではありません。話が進めばわかりますが、隠喩でしょう。

 2000年にパリ在住のイラン女性マルジャン・サトラピが己の半生を元に描いたグラフィック・ノベル(普通に漫画。四コマのように特に変形しないコマが並べられていて、カメラ的演出が少ない)が原作で、それを元に本人が監督(ヴァンサン・パロノーも監督)でアニメ化。世界中で売れまくったという原作──amazon.comで中身が少し見られます。初期のキャラクターは切り絵のような存在感ですね──のイメージを忠実に、しかしよりアニメらしい演出でレベルアップした作品。95分、基本的にモノクロだが(一部カラー)全く退屈しなかった。今回の上映会では前二作品を差し置いてこれが一番。変幻自在のイメージを描けるアニメとしても、ほとんど知らない国イラクの一少女の物語を描く映画としても、すばらしくおもしろい。基本的に酷い状況でエンターテインメントな話ではなくブラックユーモアも多いが、アニメーションとしてエンターテインメント性が高く笑わせられたり、主人公マルジのバイタリティや両親の愛情、なによりすばらしい祖母にはホロリと来る部分も多い。

 2008年(2007年度)第80回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされるも、受賞は米の『レミーのおいしいレストラン』。こちらは見てないのでなんとも言えないが、見なくても歴代ピクサー社のアニメを鑑みるに、エンターテインメントとしては上々だろう。でも作品的としては個人的にはこちらが上。だと思う(やっぱり見なきゃ駄目だね)。いろんな賞にノミネートされたり出品されてるけど、取ったのはカンヌのコンペティション部門の審査員賞とかニューヨーク批評家賞など。やはりエンターテインメント方面では受けが弱いようだ。ちなみに同第60回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門からグランプリを取ったのが日本の河瀬直美の『殯の森』 。

 パリの空港でテヘラン行きの窓口へ向かうヴェールを被った女性。パスポートを出す段になって立ち止まり、結局止めてベンチでぼうっと行きゆくひとを眺めていると、幼い少女が通りすぎる。ブルース・リーに憧れる子供の頃のマルジ。そこから彼女は子供のころの空港の出来事からこれまでの半生を回想する……。1978年、次第に強まる国王への反感とデモと改革の気炎。1989年、国王が国外脱出したあと革命にわくわくするも、ヴェールを被り窮屈な学校生活になっていく。1990年、革命政府の弾圧がはじまる。民衆を次第に抑圧し国王時代よりも生活がひどくなる一方、家族や身近な人からも犠牲が。90年代、両親はマルジをウィーンに留学させるが、異国ではイラン人としてのアイデンティティーに惑うことに。厳しい生活のなか二度の恋を経てつらい時期ののち帰国。ようやく立ち直りテヘランの美術系の大学に進むものの市民生活はより厳しくなっていき……。

 見る機会があるならスクリーンで見るべし。お薦め。


 マルジの祖父は昔の王家の血筋だそうで、1920年代にクーデターによりパーレビ王朝が建ったあと没落するものの、その後近代化の波の中で西洋の学問を納めた両親はわりと上流階級のようです。イラン革命により亡命したパーレビ国王というのは二代目で、この映画は革命前夜というところから始まるので子供のころだし国王についてはたいして言及はされてません。祖父だったか伯父だったかの言葉で、初代はまだいいが二代目は酷かったと言われてますが、子供のころのマルジは、国王は好きだよと言ったり、革命の機運が高まるころに政治犯として収容されていた伯父が帰って来て共産主義を聞かされると国王打倒だと叫んだり、いかにも子供らしい反応。マルクス主義を信じて行動してきた伯父は結局革命後に殺されますが無理に共産主義を押しつけるほどでもなく、また幼いマルジに家族のこと革命のことなど政治のことをいろいろ話す両親の、隠すよりすべてを知って自分で考えてほしいという願いがいずこもかわらぬ親心を感じます。そしてなにより祖母の、自分自身に公明正大であれという教え。この祖母のシーンはどれもすばらしいですね。

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