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最近買った漫画。『空色動画』第一巻。

 最近買った漫画。
 片山ユキヲ著、シリウスコミックス刊。『空色動画』第1巻。
 おもしろいです。特に恋とかからまず、夢と現実と友情の青春もの。ただモチーフにされてるのがアニメーションってところが他にはない、明らかに異色ながらも抜きんでている特色。ここでいうアニメーションは一般の商業アニメのことではなく(つまり何かのアニメにはまってどうのという最近増えたオタクライフ漫画ではない)、手作業の純然たるアニメーション。アニメそのものの魅力にはまった女の子らが、文化祭に向けて自らアニメを作ろうとする古き良きアニメ好きにはたまらないお話です。

 物語の主人公は三人。クラスでは地味で目立たないけれど絵を描くことが好きなヤスキチ(安木千代子)、帰国子女で異様に明るいノリのジョン(仇名)、パンクロッカーで派手ななりをしてるベーシストのノンタ(仇名)。ある日たまり場のカフェで、教科書に書いたパラパラマンガをジョンが持ってきて仲間みんなで楽しんでいた。それはヤスキチがノンタをモデルに描いたもので、怒ったノンタがヤスキチに自分自身をモデルにして描けば許すという。ついでに二人は自分も入れろと自分の絵をデザイン。そこでヤスキチが描いたものは、怒りのノンタがヤスキチに遅いかかろうとするところをジョンがぶっとばしてヤスキチを守るというものだった。盛り上がる皆の中、ジョンがみんなでアニメをつくろうと言い出す。それぞれの学生生活の中、次第にアニメ作りで盛り上がり始める三人──。彼らの日常やアニメに対する想いが描かれていくというところで第一巻の終わり。

 青春ものでアニメ作りが題材というのも珍しいけれど(『アニメがお仕事』みたいなプロ路線はおいといて)、その演出がまたいい。たとえば最初の三人が出るパラパラマンガ。リアルである女子高生らがいるコマ(リアル)の中、彼女らの隣にそのままヤスキチ(絵)、次にノンタ(絵)が出ます。ここでははっきりと線を変えているのでリアルと絵が区別されるようになっていますが、それでも同じコマで表現されていることに変わりはありません。たとえばCMなどで実写の映像の中にラクガキ風のアニメが入るような感覚だけど、少し違うのは絵自体はパラパラマンガ用で立体感はさほどないのに、コマ内ではちゃんと立体感があること。最初に出たヤスキチ、次に出たノンタは、ヤスキチが絵を描いて少女らが覗き込んでいるテーブルや椅子と微妙に重なりその前後にいるように描かれます。しかもその次に出るジョンは(ジョン自身がデザインした幼稚園児の絵のようなそのままのラクガキ絵で)なんと二人の倍にもなる大きさで描かれるのですが、そこでは大開きのコマでそれまでの少女らのほぼ正面カットとは違い斜め構図にしパースも付けた上で、少女ら(リアル)と同等に薄めの影を付けた(外光に照らされたものなので、体と床と天井についてる。つまり現実と重なっている)圧倒的な存在感で出現します。下のコマの「出たーっ!」「でけえっ」という直後の少女らの叫びとともに読者にその少女らの驚きと楽しさを効果的にみせているわけです。実はメモ帳に描かれたパラパラマンガ自体は最後の1ページでようやくコマに出るのですが、それまで描かれ動いたはずのパラパラマンガのコマはそうしてリアルと重なって描かれていき、少女らの驚きや楽しさが漫画のコマ(リアル)を読む読者に同等に伝わるという、ある意味二重構造をリアルタイムで読めるという驚きの演出になっています。そこそこ漫画を読んできた私ですが、正直こういう演出は初めて見たかもしれません。
 映画など映像作品でよくお話を語る人がいてその内容が新たな映像として出てくるシーンがありますが、そういうものでは大抵いきなりカットするも声だけ続いたり、オーバーラップして次第に変えたり、二重露出などで一緒に描かれたりしますけど、いずれにしろ大抵双方独立しています。この漫画ではどちらかというと舞台的な見せ方で、少し変わった演出やミュージカルで見られる類のものに近いのでは(照明の暗転とかそういうカット的なものではなく)。少女漫画では昔から映画的な見せ方はありますし、舞台的なものもあります。そもそも舞台のこういった演出は映画等の演出が出来ないが為に生まれたものもあると思いますが(いえ舞台演劇にはうといので違うかも)、漫画でも同じように映画のような一定した時間の流れというものが無いが為に擬似的に生まれた演出はありました。しかしそれとは視点が違います。映像でもできるでしょうが、この細かい演出が動画で意味を持つのか、ふつーに二重露出みたいなもので入れても見てるほうには変わらないんじゃないかとも思えますね。
 以前どこかネットで見た説ですが、漫画の読み方は一定に流れる時間がないということが一番の特色だと。読み手のリズムという意味ではなく、コマで区切られることでワクによって一定の時間差が生まれるのが基本なのに、コマ内でも時間のズレがフキダシというもので指定される、つまりは同時に見える絵もフキダシの読む順番で時間が決まってしまうし(逆に言えば現在と過去の映像がコマ内で同時に見ることができる)、フキダシがなくとも画や線の描写で時間描写も出来てしまう。シナリオの意味ではなく、絵を描くことにより時間を操る漫画の描写というもので空間すら操った希有な例ではないかと思えるのです(いままでそういうのが上手かったのは、超能力ものを描いてきた漫画家でしたが、これは分かりやすい心理描写のみ)。

 勿論そういった漫画的演出以外のドラマでも楽しめます。ヤスキチは絵さえ描ければいいという、クラスでも真面目な地味さで通してきた女の子です。ロッカーなノンタに名前も顔も覚えられてなかったほどですし、現実逃避もよくします(これがまた。幽体離脱のように描かれます)。しかし絵は上手い(美麗なというより、立体感とか自由度が高いのでしょう)。アニメとして皆に喜ばれる様を見ても、リズムの撮り方も演出もできるということがわかります。その魅力が、クラスでも見た目ヤンキーではすっぱな女子高生らに大ウケ。趣味も違うはずのノンタですら率直にその魅力を認め、ロッカーとして青春しながらも絵を褒められてアニメにのめり込ませていくことで、彼らの新しい友情を育んでいくことへの楽しさが目に見えるようです(漫画だけに)。無論きっかけを作ったジョンも同じ。なんでもいきなりで何も考えてないようなあっかるいジョンはそのパワーも人一倍。チームのエンジンは彼女、ちょっと迷うヤスキチも素直になれないノンタもぐいぐい引っ張って──ではなく押していきます(引っ張るのはやはりヤスキチのアニメーションの能力でしょうね)。表紙が青空に彼女なのも納得かな(まあどちらかというと内面がわからない分、主役っぽくはないですが)。
 しかしパラパラマンガを見た仲間たちに文化祭に出せばと言われその気になっていたある日、球技大会に出場を決めたノンタとジョンは放課後まで猛特訓。運動音痴なヤスキチは無論蚊帳の外で、一人とぼとぼと家に帰ります。ここらへんの描写も、まあ昔からあるものだけど上手い。そして自分には絵があるからと部屋で一人で淋しく絵を描き始めるのですが、そこでもラクガキのノンタとジョンがリアルで出てヤスキチを慰めるような演出があり、今では絵を描くことよりも二人が好きな自分に気付きます。結局二人はアニメのことを忘れてはおらず、友情は切れないわけですが、他にもノンタの一日を描いて、今までの生活を見せつつもアニメ制作を忘れずハマっている彼女が描かれたり、ジョンの生い立ちが多少ながら出てきたりして、青春ものとしてもハズレ無し。
 シリウスは滅多に立ち読みできないのでずっと追いかけてきたわけじゃありませんが、じっくり読んだほうが楽しめると思いますのでコミックスで読むのもお薦めです。

 最後に絵柄でいうと、じつはわりと地味。あまりリアルな絵柄でもなく萌え路線でもなく、ふつーに一歩引いた構図が基本で、アップや手前から何かナメた凝った構図もない。ある意味映画的でドラマ描くには最適だと思いますが、今どき珍しいかも。人物に影は通常つかずそのせいかわりと白い印象もありますが、印象的なシーン、晴天の室内とのハイキーな構図などではスクリーントーンの薄い影が入っていて微妙な違いを見せます。それに影もなくシンプルなラインながら立体感があるということはデッサンがわりと上手いということ(表紙とか微妙だが…)。昔はよくいたけど、今どきは少ないなぁこういうの。
 って検索してみれば、どうやら藤田和日郎の古参アシスタントなんですね(だから帯に推薦コメント書いてたのか)。昔は片山ユキオ名義で2003年ごろサンデーでギャグ漫画の短期連載もしたとか。なるほどなあ……って、ええっ『ふわ子呪っちゃう』も描いてたって! 全然気付かんかった! 絵柄こんなのだっけか?! なんか好きだったんだけど、あれ1999年? そんなに古かったかーっ。これが売れたら他のと一緒に傑作集とかででもいいから出ないかなぁ……無理か。ちなみに検索したらトレーディングカードも見つかりましたが、絵柄が随分違うのはともかく値段が泣ける……まあ他のも似たようなものだから絵でこの値段ってわけじゃないか。

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コメント

・・・以前の記事でコメントさせてもらうことをお許しください。

・・・・・・ここのとこ、新刊を買っていなかった私。(っつといて”グレンラガン”の単行本はしっかり買ってる(苦笑))
つい先日、アフタヌーンを立ち読みしていたら(こら!)
前にもすこぅし気にはなっていましたが、何故か更に引きつけられ「謎の彼女x」の単行本を買いました。

・・・ご存じかと思いますが、なんともシュールというか不可思議というか・・・そんな内容ですが(あぁっ!自分のボキャ不足に嫌気がさす(笑))・・・親近感が湧いたのは、スクリーントーンを使用せず、すべて手書きで作品が出来ていること。

・・・・・レベルは全然違いますが、私も学生の時、同人誌の作品で4作中1作だけスクリーントーンを使用しまして、後の作品はすべてを手書きで斜線やら、網掛け(もどき)やら陰影やらをやっていたのを思い出しました。(ま、お金がなくて買えなかったというのが、最大の原因ですけどね(笑))

・・・・・・思うに、やはり画力がしっかりしてないとただ紙面が汚くなっちゃいますからね。その点でも、この作品は安心して見れますね。(年のせいかなぁ・・・どうもちょっとしたメジャー誌に掲載している作品の絵柄はみんな同じに見えちゃうんですよね。具体的にどれとは今思いつきませんが・・・)

”もう!また買ってきて!!(怒)”
・・・妻の文句を余所に”2巻も買おうかな”と考えてる私がいます(笑)

・・・・・・以前に”ラブやん”集めてましたが・・・・・・どっか行っちゃいました。
・・・たぶん、妻の仕業でしょう(笑)

投稿: 栃木の海坊主 | 2008/09/04 11:20

 『謎の彼女X』無論知ってます。買ってます。植芝理一は、デビュー作『ディスコミュニケーション』からずっと読んでます。単行本は『ディスコミ』途中から買わなくなって、『夢使い』からまた買い始めました。絵柄は変わらないようでかなり変わってますし、線も変転ありますが、今の濃いめの鉛筆書きのような独特なラインも好きです。

 初期は今よりもっとアフタヌーンらしいというか、同人風味がいいアクセントでしたが、いい意味で『謎の彼女X』はとっつきやすいと思いますね。キャラクターデザインは前作『夢使い』半ばあたりから今のような感じになってます。大きい目とアオリや俯瞰の構図にあう表情とか。

 そんなわけで『夢使い』よりは『謎の彼女X』のほうが話としても絵としてもウケはいいと思いますが、女性から見てあの作風はどうなんだろうと思わなくもないです。『ラブやん』よりは当然ウケはいいでしょうが(笑)。いや『夢使い』はやっぱり捨てられるかな……。

 ついでに全く似てないけど、同じように手書きの良さが残るものとして同じアフタヌーンKCの「とよ田みのる」の『ラブロマ』全5巻と『FLIP-FLAP』全1巻もお薦め。前者は青臭い青春ものとコメディとほのぼのさのマッチングがすばらしく、後者はマイナーネタで見た目は少し損してますけど、読むと先のそれに加えて単純ゲームに没入してる時の脳内イマジネイションを具現化しようというところが話がシンプルなゆえによくできていると思います。

投稿: やずみ | 2008/09/04 18:07

(・・・昼頃から忙しくなるので今のうちに(笑))

・・・やはりご存じでしたか。
よくよく観るとスクリーントーンは大まかな所しか使っていませんね(黒板とか、町全体の影とか)でも、やっぱりすごいなぁ。

・・・『夢使い』ですか・・・探してみますね。

・・・しかし、卜部さんは不可思議ですねぇ、すべてを
「こういう人だから」で片づけてしまうんですから。

・・・自分の中で(まぁ、『八神くんの家庭の事情』のぱくりでもありますが)近未来アクションモノで不死身の女始末屋(ここいらへんは、未だ陳腐です)の決まり文句に『こういう体質だ!!』というのを考えてありましたけどね。
(銃で撃たれようが、刀で切られようが、吹っ飛ばされようが、即座に包帯巻いた姿で復帰・・・って菊地秀行御大の『不死身の醍醐』のパク・・・リスペクトでした(笑))

投稿: 栃木の海坊主 | 2008/09/05 08:55

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