星の夜の爆発。
翡翠さんの『かわせみ部隊』で稲垣足穂の本があげられていたので──
それにまつわる思い出。
正直な話、私は未だに稲垣足穂氏の本を読んだことはありません。なんか手にとる機会を逸して。未だ古本屋などでの出逢いを期待して、ずっとそのままに。
ただ一部、氏の文章に触れたことはあります。それがヴァージンVS(ヴイズ)の歌なのでした。
ヴァージンVSというのは、今では知らない人も多いでしょうが、1980年代に活躍したバンドです。ジャンルは……一応ポップスなんだろうか。このバンドに参加していた(リーダーだったと思うが)A児ことあがた森魚(もりお)は、かつて1971年に『赤色エレジー』という曲でメジャーデビューし大ヒットしました。あがた森魚氏についてはこちら山縣駄菓子店~あがた森魚に詳しく載ってます。ちなみにこの歌は林静一氏の漫画『赤色エレジー』に触発されて歌にしたそうですが、これについてはおもしろい逸話などがあるそうで。これは昭和歌謡のような歌なのですが(当時は一応フォークの分類か)、ヴァージンVSはどちらかというとロックやポップス調でした。アルバムはベスト含めて六七枚ほど出したかと思います(五枚は持ってたはず)。
ヴァージンVSはマイナー系っぽいですが実際はドラマで歌が使われて、そこそこ知られていたかと思います。というかアニメ『うる星やつら』のエンディングにしばらく使われた「星空サイクリング」の存在がアニメファンには効いてましたね。あれでヴァージンVSに転んだひとは多かったと思います。実はアルバムの一曲「コズミック・サイクラー」の歌詞やアレンジを変えた別バージョンですが、元歌のシュールな感じでオチのついたところが好きな人も多いはず。もっともヴァージンVSを私が知ったのはその前、(地元では深夜に放送されていた)探偵ドラマのこれまたエンディングに使われた歌「ロンリー・ローラー」からで、あれもいい歌でした。
そのヴァージンVSの二枚目のアルバム『STAR☆CRAZY』の中の一曲「スターカッスル星の夜の爆発」が足穂の本から引用された歌詞で(そのまんまらしい)、そらもう凄いイメージで、曲と歌いっぷりとLPのイラストなどと相まって物凄く気に入りました。ヴァージンVSは名曲揃いですが、中でもこの特異的な歌はあがた森魚のお気に入りでもあるらしく、ご本人の別のアルバムにも別バージョンが収録されています。ただしアルバム『永遠の遠国(二十世紀完結篇』などに入ってるアレンジ版よりはヴァージン版のほうがストレートに歌詞にひたれるので、そっちを先に聞かれることをお薦めします。問題は今は入手がかなり難しいこと。LPレコードは言わずもがな、CD版ももう十年前になるので全く見かけません。ネットじゃプレミアものなので、足で捜したほうがましかも。次点は『遠国』の組曲版かな。組曲一番あたりは聞き取りにくいけど。
かなり短めで間違った印象を与えかねないのでなんだけども試聴できるページはこちらに。
ヴァージンVSは明るい、日常ながらどこか夢見る視点で描いた歌(強いて言えば南洋っぽいというか)が基本なのですが、時折シュールな部分もあって、この歌などはあがた森魚の足穂趣味から来てると思われますが(ファンだそうで)曲だけ取るとこれが特にシュールでもなくすばらしいメロディで耳に残ります。セカンドアルバムでは、これと「水晶になりたい インストゥルメンタル」がもう名曲中の名曲。残念ながらこの二曲が入ってないという中途半端なできですけど、去年ベスト版が出ています。その名も『ヴァージンVSゴールデン☆ベスト』。「ウィンターバスストップ」もお薦め。アップテンポの明るいポップスなんだけど、突き抜けた感じがあって。
ヴァージンのCD持ってたはずなんだけど、どこにいったやら……。
あ、無論あがた森魚氏のCDもお薦めですよ。
タンゴに興味のない人間もタンゴ漬けにしかねない『バンドネオンの豹(ジャガー)』。
昭和歌謡と大正風味の調べを求めるなら『噫無情(レ・ミゼラブル)』や『乙女の儚夢(ロマン)』。
あがたさんだけのアルバムではないけど、監督した映画『僕は天使ぢゃないよ』のサウンドトラックもお薦め。主題曲がまたいいんだ。先のアルバム『乙女の儚夢』から「赤色エレジー」と「清怨夜曲」という二曲の名曲が入っているのでこちらだけでも良いかも。
うお、ついこの前『乗物図鑑』も出てた! あがた森魚のヴァージンVS以前の幻のインディーズLPのCD化。これは聞いたことないので買うしかありません。
とまあとりとめもなく書き綴ったけれど、稲垣足穂の話はどこだってくらい少ないですね。
まあタイトルは、こういうことを一気に書いたこの夜の自分の気持ちということで。
まだ風邪が治りきっていないというのに……。
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コメント
ちくま文庫の『稲垣足穂全集』をそろえるのは、さすがに気が引けますしねぇ……。
『オートバイ少女』の前にも、あがた森魚は漫画との協同があったんですか。
『星空サイクリング』も、あがた森魚が唄っていたとは知りませんでした。ヴァージンVSを率いていたのを。
listen.jpで組曲「スターカッスル星の夜の爆発」を試聴した限り、わたしが読んだ『一千一秒物語』には元ネタ話は入ってなかったようです。
(意識的な)あがた森魚の未経験者としては、おすすめの『噫無情(レ・ミゼラブル)』から聴いてみます。やはり足穂が元ネタであるという、「星のふる郷」が入っているので。
投稿: 翡翠 | 2007/03/26 23:24
『オートバイ少女』は聞いていますが内容は知りません。まあ『僕は天使ぢゃないよ』もなにもあがた氏関連の映像はみな実際見たことはありませんが(『うる星』関連でも映像出てこなかったし、『街角のメルヘン』でも映像にはかかわってないはず)。ライブなんて当然見たことない。唯一見たのは、「赤色エレジー」を歌うゲタ履きあがた氏の映像(笑)
薦めといてなんですが、『ああむぜう』はあがた森魚オンリーというわけでもないので注意。カバーとかはちみつぱいのメンバーの曲もあるし。……これもCD出てこないなぁ。
以下のページの2004年02月08日(日)のところに「星ふる郷」の歌詞が載ってます。
ttp://www.geocities.jp/naka4wd/log/2004.html#20040208
「星のふる郷」が足穂が元ネタだったかどうかは知りませんでしたが(まあファンだからそうか)、「スターカッスル星の夜の爆発」の歌詞は『ヰタ マキニカリス』に収録されている「星澄む郷」そのものだそうです。製作順からして、「星ふる郷」等を作ったのち、さらに足穂の文章をそのまま歌にすることにしたんでしょうね。いやあの歌詞、というか元の文章は凄いですよ。そらもう歌いッ振り含めてシビれました。あとにもさきにも足穂の文章がこれだけ染み込んだものは、この歌しかないと。イメージといい語り口調といい言葉のつながりといいすばらしい。単体で読むとここまで入り込まなかったかもしれませんが。
……いまにも機関車の釜のなかから
鬼が飛び出して
汽車は峰々谷々を
滅茶苦茶に突っ走り
乗客たちの頭髪を
真っ白に変えてしまうのではないかと……
そうです我々はあのとき
鋸山に入り込んだのです
スターカッスルの
星の夜の爆発──。
投稿: やずみ | 2007/03/27 03:30
「星ふる郷」の歌詞を読むと、あまり足穂らしい感じがしませんね。『一千一秒物語』しか読んでませんが……。
共作詞者である松本隆らしさのほうが、より感じられる気がします。「星のふる郷」と「星澄む郷」が、混同されているのかしら。
という事で、『乙女の儚夢』のほうを聴こうかしら(笑)。
「星澄む郷」は、歌詞だけ読んでもピンと来ないです。前後の篇も含めて、総体で読めば違うのかも。
試聴したときのほうが、ピンときました。まさに爆発で(笑)。
投稿: 翡翠 | 2007/03/27 22:57
『乙女の儚夢』は暗いですよ。それはそれは。少しマイルドな?分『僕は天使ぢゃないよ』もお薦め。
> 「星澄む郷」は、歌詞だけ読んでもピンと来ないです。前後の篇も含めて、総体で読めば違うのかも。
まあ読んでない私が全般的にタルホ的と断定はできませんわな。試聴分はごく一部でさらにわからないので紹介したものか迷ったのですが……。
ちなみに最初のヴァージンVS版のものより『永遠の遠国』版の組曲版やEx版のほうが歌詞が長かったり違ってるので、もしかしたらどれも「星澄む郷」の一部だけかも。
先に書いたのはヴァージンVS版での私が好きな部分ですが(字はこう書くかは知りません)その次の次のあたりも好きです。
……なんであるかは知りません。
ただ私はもしそんなものを
ご覧になったのならばそれは
まだ汽車も電信機も
無かった時代のシロモノだと
申し上げるばかりです。
つまり当時山脈の中にあった鉱山の幻だと。
なるほどあのひとときに
胸をおそった淋しさは
ただ折節夢の中でのみ伺いうるものです。
……幻の機関車が
おもしろい形の煙突から
煙をはいてトンネルを抜け
険しい谷間に架かった橋や
崖際に沿って上っていった
昔のことがおわかりですか。
スターカッスルの
星の夜の爆発──。
組曲版では大貫妙子が相手になって一部(上の所だと「……幻の」から後)歌ってるのがおもしろい対比になってます。ヴァージンVS版では確か一人で歌ってたはず。
投稿: やずみ | 2007/03/28 01:13